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将棋の深さ知るからこそ 羽生、「永世名人」有資格者に

2008年6月28日10時50分

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写真シリーズを振り返る羽生善治名人=東京都千代田区、鬼室黎撮影

 将棋界を20年近く牽引(けんいん)してきた羽生善治が、ついに名人通算5期で得られる「永世名人」の有資格者となった。戦前の37年に実力制名人が生まれてから66期。6人目の偉業だが、こと羽生の場合は称賛よりも「なぜ初の名人獲得から14年もかかったのか」「名人戦との相性が悪いのか」などと、遅れたことの不思議さがどうしても先に立つ。

 取材する側の関心もその点に集中しがちだ。1年前、同い年の森内俊之名人が羽生に先立って「永世名人」の資格を獲得してから、私は何度もライバルに先を越された心情や、「永世名人」に対する思い入れに迫ろうと試みた。その度に羽生は笑いながら、「結果は結果」「特別な意識はないんです」と自然体を貫いた。名人奪還を果たしてからは「念願かなった」思いを聞きたかった。しかし、奪還翌日のインタビューではそんな見方がいかに浅薄だったかを思い知らされた。

 なぜ戦うかを尋ねると、新名人はこう答えた。

 「ここ10年は今までの将棋の歴史のなかで一番変化が大きい時代。そのなかで、謙遜(けんそん)ではなく、自分自身は決してトップランナーではなかった。いかにして追いつき、新しい感覚を身につけるかに忙しかった」

 どうしても分かってほしいといった感じで熱心に言葉をつなげ、「将棋の鉱脈の深さには本当に驚きました」と楽しそうに話すのだった。

 将棋は高度な知的ゲームであると同時に、人間同士の頭脳がぶつかりあう勝負でもある。だから戦う理由も、将棋の真理を究めたいという学究的な志もあれば、純粋に相手に勝ちたい闘争心や名誉欲もある。生活がかかれば金銭欲もあって当然だ。名人戦という最も歴史ある舞台に、羽生といえども特別な戦う理由があると思いこんでいた。

 ところが新名人は周囲の憶測や雑音を一顧だにせず、将棋の深さに驚き、悩み、苦しみ、楽しむことにひたすら集中してきたのだ。その延長線上に結果があるにすぎない。

 「目の前の一局、次の一手を大切にするよう心がける」「先のことを考えても仕方ないので、瞬間、瞬間を大切にしたい」

 新名人の目標は極めてシンプルかつ本質的だ。将棋の深淵(しんえん)に最も近づき、その怖さを知るからこそ、瞬間が大切なのだろう。(丸山玄則)

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